こんにちは!
イラストキネマのオーナー、サオリです。
ご来館ありがとうございます。
今回は映画「PLAN75」をご紹介します。
舞台は、75歳から自らの生死を選択できる制度・プラン75が施行された近未来の日本。
リアリティのある設定でお年寄りだけでなく幅広い年齢、いや全年齢に警鐘を鳴らす問題作です。
本作はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、早川千絵監督が新人監督賞で特別表彰されました。
75歳以上の人に生死を選ぶ権利を与えるこの制度の狙いはなんなのか?
プラン75は本当に対象者を尊重しているのか?
おそらく死ぬまで独身で、老後に不安を抱えている私の感想を正直に書きました。
監督 | 早川千絵 |
キャスト | 倍賞千恵子 磯村勇斗 たかお鷹 河合優実 ほか |
製作年 | 2022年 |
製作国 | 日本・フランス・フィリピン・カタール合作 |
上映時間 | 112分 |
映画「PLAN75」あらすじ
満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が国会で可決・施行された。
夫に先立たれ、ひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)は、高齢を理由に突然職を解雇されてしまう。
働き口が見つからずプラン75の申請を検討するミチ。
一方、そのプラン75の申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)と、死を選んだお年寄りをサポートするコールセンターで働く瑶子(河合優実)は、この制度に疑問を感じ始めていた。
「PLAN75」は、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件をモデルにしているであろう事件から始まります。
この事件がきっかけで「プラン75」という制度が生まれるのですが、この流れも現実味があって
「本当にこんな未来が来るのでは?」
と薄ら寒くなりました。
自らの死を選択できる制度
果たして、是か、非か?
フィクションなのに近い将来の日本の姿を見せられているような、そんな怖さがあります。
早川千絵監督
「PLAN75」の監督・脚本を務めたのは早川千絵さん。
ニューヨークの美術大学で写真を学ぶ合間に映像を撮影し、日本に帰国してから映画学校に通い始めたというめずらしい経歴をお持ちです。
早川さんが映画学校に通い始めたのは36歳の時。
映画学校の卒業制作で撮った「ナイアガラ」は、カンヌ国際映画祭のシネフォンダシオン部門にノミネートされました。
映画監督のスタートとしては遅く思えますが、早川さんは「回り道して本当によかった」と言っています。
原作は早川監督の短編映画
もともと「PLAN75」は「10年後の日本を描く」というコンセプトのオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」のうちの一作の短編映画として制作されました。
「十年 Ten Years Japan」が制作されたきっかけは、5人の新鋭監督が近未来の香港を描いたオムニバス映画「十年」。
この「十年」を元に、10年後の社会や人間を描く国際共同プロジェクトが日本・タイ・台湾で2017年に始動しました。
日本版の総合監修を務めたのは日本を代表する映画監督・是枝裕和さん。
短編映画「PLAN75」の脚本・監督を手がけたのも早川監督でした。
この原作ともいえる短編映画のキャストを一新し、再構築したのが今回公開された「PLAN75」。
早川さんは「PLAN75」制作について以下のように語っています。
2000年代半ば以降、日本では自己責任という言葉が幅をきかせるようになり、社会的に弱い立場の人を叩く社会の空気が徐々に広がっていったように思います。
そして2016年、障害者施設殺傷事件が起こりました。
人の命を生産性で語り、社会の役に立たない人間は生きている価値がないとする考え方は、すでに社会に蔓延しており、この事件の犯人特有のものではないと感じました。
政治家や著名人による差別的な発言も相次いで問題になっていましたし、人々の不寛容がこのまま加速していけば、<プラン75>のような制度は生まれ得るのではないかという危機感がありました
「PLAN75」公式サイト「INTRODUCTION」から
主人公・ミチ役に倍賞千恵子
「PLAN75」の主人公・角谷ミチを演じるのは倍賞千恵子さん。
「男はつらいよ」で寅次郎の妹・さくらを演じました。
文化庁芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、旭日小綬章を受賞している、日本を代表する俳優です。
ジブリアニメ「ハウルの動く城」の主人公・ソフィーの声を演じていることも有名ですね。
「PLAN75」でもちょっとした行動や言葉遣いで、ミチのこれまでの生き方や人柄が見える演技をされています。
「PLAN75」感想:独身でなくても死ぬ時は独り
「PLAN75」の公開初日に観に行ったところ、ご年配の方が多かったですね。
私の隣におばあちゃん数人が座っていて、仲良くおしゃべりしながら上映を待っていてほほえましかったです。
この映画の肝となる制度・プラン75は、一見75歳以上の人に生と死を選ぶ権利を与え、尊重しているように見えます。
ですが少し考えれば、
75歳になったら、もういなくなっても構いませんよ
(むしろいなくなってくれ)
と言っているのと変わりません。
瑶子が働くコールセンターで、プラン75に申し込んだお年寄りを心変わりさせないよう指導する場面もあります。
プラン75に申し込むかどうかは本人の意思にゆだねられていますが、実際に施行された場合
「75歳になったらプラン75に申し込めよ」
という圧力は間違いなく生まれるでしょう。
働けない・働いていない人は、社会にとって不要なのか?
ただ生きることに誰かの許可が必要なのか?
そんな疑問が観ている時からずっと頭の片隅にありました。
ただ生きることに誰かの許可が必要なんて、そんなことはないはずです。
そのはずなのですが、私も無職だった時、焦燥感というか「ここにいていいのかな」という漠然とした不安がどこかにありました。
そうした経験から、年は離れていてもミチの気持ちはわかるつもりです。
誰かの役に立っている・必要とされている実感を感じずに生きるのは、難しいんですよね。
早川さんが言う「不寛容な社会の空気」がそうさせているのかもしれません。
何もせず生きる人を「不要」とみなすプラン75のような制度をつくらせないためには、「ただ生きること」を当たり前に認められる社会をつくるしかないと思います。
ですがそういう社会をつくるにはお金が必要で、日本の現状を見れば「無理」としか思えません。
「それでも、この映画を観た人が少しでも自分と他人に寛容になれたら…」
というのが私の願いです。
だから若い人にこそ観てほしい。
ミチは結婚していましたが、夫に先立たれ独りで暮らしています。
「結婚していたら老後の不安ってやわらぐのかな」と漠然と思っていましたが、
「結婚していようと独身でいようと死ぬ時は独りなんだ」
という感想を抱きました。
「PLAN75」は、こうした老後への不安の解決策を提示する映画ではありません。
というか解決策なんて現在ないといっていいでしょう。
「老後どうしよう」という不安は相変わらずですが、知らない間に社会の空気にのまれて自分の生死を選ぶ恐ろしさは忘れたくないと思いました。
あえて説明しない姿勢が最高
「PLAN75」は必要以上の説明がないのも大きな特徴です。
少し前から、邦画で登場人物が心情や他の登場人物との関係などをセリフで説明することが多くなったように思いますが、そういう説明めいたセリフが「PLAN75」には一切ありません。
「映画なんだから演技なり小物なり、映画ならではの方法で表現してほしい」
と思っている私は、「PLAN75」のセリフで説明しない姿勢に感謝の気持ちでいっぱいになりました。
説明がないから想像の余地がありますし、ゆだねてくれているように思えてすごくうれしかったんです。
「セリフでなにもかも説明するのが当たり前になっちゃったらどうしよう」と不安に思っていたので、こういう映画が出てきてくれて安心しました。
「プラン75」是か、非か
さてこのプラン75。
申請すればお金がもらえ、定期的に電話がかかってきておしゃべりも楽しめ、最後は薬で眠るように死ねる、メリットが多い制度です。
「人様に迷惑かけず、ぽっくり逝きたいな」と思っている私にとって、プラン75は願ったり叶ったりの制度だったりします。
ですがこの制度を国が認めたとなると上にも書いたように、「年寄りは死んでもいい」と公的に認めることになりますから、大問題です。
そんなことになったらいよいよ日本もオシマイだと思う一方で、老後の不安もぬぐえません。
「お金もないし働き口も貯金もない…」となった時に、ぽんぽんと肩を叩かれて「実はプラン75という制度がありまして…」と紹介されるのが私は理想ですかね…。
いやでも「もう死んでもいいよ」って言われるの、きついな…。
老後を描いた「PLAN75」の評価
誰もが不安を抱える老後を描いた「PLAN75」。
他の方はどう評価したのか、見てみましょう。
高評価
- ラストシーンが良かった
- 今の日本のむごさを表している
- 倍賞千恵子さんの演技が素晴らしい
ネタバレになるのでラストシーンについての言及は避けますが、映画のラストとしては良かったと思います。
ただ、私はこのラストに希望を感じられませんでしたし、同じように感じている方もちらほら見受けられました。
PLAN75、わたしは使いたい。何なら45くらいでもいいぞ、やりたいこと大体やったし。けど、こんなこと言うのは病んでるってことなのかしら?
— めぐ@お暇終了 (@kanomegu0726) June 17, 2022
こんな自分なのであのラストは希望とはとても思えず、希望と感じられる人はある意味幸せだと思う…(批判にあらず)。
ですがこれは映画の出来が悪いのではなく、日本の現状が問題なんですよね。
パンフレットを読んだ限りでは、あの結末には日本の現状を疑問視させる狙いはなかったようです。
プラン75の対象者は75歳以上と紹介されていますが、ホームレスも対象であることが暗に示されます。
プラン75に申請した人が最期を迎える施設で働くのが外国人労働者である点も、現在の日本の問題を浮き彫りにしているように感じました。
主演の倍賞千恵子さんも素晴らしかったですね。
ミチの品の良さと凛とした姿勢を見せることで、ミチが死ぬことに疑問を抱かせ、本作の問いを観客に投げかけることに成功していました。
プラン75に携わる役を演じた磯村勇斗さん、河合優実さんの演技を評価する声も多かったです。
低評価
- 掘り下げが甘い
- 展開が遅くて退屈
- 登場人物の心情がわからなかった
本作は主人公のミチを中心に描かれるため、プラン75が施行されることで起こりうる事態などについてはあまり描かれていません。
『PLAN75』:良い映画だった…とはいい難い作品だった。叫ばない閉塞感ものだが、視点に対する掘り下げがあまりにも甘い。外国人労働者はそこに存在するだけであり、10万円支給されることとがどう影響するか、国家が死を与えるのを容認する社会が当事者外にどう影響するかが希薄である。 pic.twitter.com/yPVgmQmgaa
— che bunbun | 映画の伝道師 (@routemopsy) June 18, 2022
新しい制度が起こす問題などを見たい方は、ちょっと残念に思うかもしれません。
また「PLAN75」は登場人物の表情や仕草を丁寧に撮っているため、展開が早い映画に慣れていると退屈するかもしれません。
ミチがプラン75に申し込むのも映画の中盤あたりなので、「展開が遅いな」とは私も思いました。
ですがミチがやむなくプラン75を選択する過程は、この映画に欠かせません。
ミチがじりじりと追い込まれていく様はとてもリアルで、自分事として捉えざるを得ない点は評価されるべきだと思います。
上にも述べたように、昨今の邦画にありがちな心情の説明がないので、「想像するより登場人物が何を考えているのか知りたい」という方には、あまりおすすめできません。
まとめ
独身による映画「PLAN75」の感想とご紹介でした。
老後への不安はぬぐえませんが、そうした不安をいたずらに煽る映画ではなく「ただ生きていていい」と言ってくれる優しさがあります。
映画としての表現にこだわっている姿勢も感じられ、早川監督の次回作が今から楽しみで仕方ありません。
倍賞千恵子さんをはじめ俳優さんたちの表情や視線の演技も素晴らしかったです。
- 老後が不安
- 説明が少ない映画が好き
- 映画を見ながらあれこれ想像したい
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イラストキネマのオーナー、サオリでした。
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