こんにちは!
イラストキネマのオーナー、サオリです。
ご来館ありがとうございます。
第75回カンヌ国際映画祭で二冠を達成した、映画「ベイビー・ブローカー」。
本作の舞台は韓国で、キャスト・撮影監督などの主要スタッフも韓国人です。
脚本・監督・編集を務めた是枝裕和さんは、日本はもちろんフランスでも映画を撮影したことがあり、国際的に活躍されています。
今回の「ベイビー・ブローカー」は、なぜ韓国を舞台にしたのか?
キャスト・スタッフ決定の裏側や、日本と韓国の撮影現場における労働環境の違いも解説します。
映画「ベイビー・ブローカー」なぜ韓国?舞台とキャスト・スタッフ決定の裏側
映画「ベイビー・ブローカー」の舞台は韓国。
キャスト・スタッフも韓国人を多く起用しており、撮影も韓国で行われています。
舞台はなぜ韓国なのか、キャスト・スタッフに韓国人が多いのはなぜか、その理由を見ていきましょう。
韓国が舞台となった背景:赤ちゃんポストをとりまく状況
是枝さんは2013年に映画「そして父になる」で、子どもを取り違えられた2組の家族を描いています。
この映画を制作する際、是枝さんが読んだ資料の中に赤ちゃんポスト“こうのとりのゆりかご”に関するものがありました。
“こうのとりのゆりかご”は熊本県熊本市の慈恵病院に設置されている、日本で唯一の赤ちゃんポストです。
是枝さんはこのころから、赤ちゃんポストや養子縁組に強い興味を持つようになったといいます。
赤ちゃんポストは是枝さんにとって題材となり、そこから「万引き家族」と「ベイビー・ブローカー」が生まれました。
プロットとしては、『ベイビー・ブローカー』の方が先。
「SWITCH」2022年7月号
言わばこのふたつは、僕にとってはきょうだいみたいな作品なんです。
産んでいないけれど母になろうとする話と、産んだけれど育てられずに捨てる話。
是枝さんは「ベイビー・ブローカー」を韓国で撮影した理由について、以下のように話しています。
正直言うと、日本では撮れないだろうなと思った。
赤ちゃんポストが日本に100施設あるならフィクションとして成立するかもしれないけど、これを日本でやると慈恵病院に対してある種のネガティブな感情を生みかねないと思い、かなり早い段階で韓国で撮影することを決めました。
「SWITCH」2022年7月号
ここだけ読むと韓国には赤ちゃんポストがたくさんあるように思えますが、現在韓国にある赤ちゃんポストは三つだけ。
是枝さんも数は大して変わらないことをインタビューで話していました。
ですが、赤ちゃんポストに預けられた子どもの数は大きく異なります。
日本 (2007年5月~2020年度) | 韓国 (2009年~2019年) | |
預けられた子どもの数 | 157人 | 1802人 |
期間はあまり変わらないにもかかわらず桁違いです。
さらに韓国では、2012年に養子縁組の要件が厳格化されたことが大きなニュースとなり、赤ちゃんポストの認知度が上昇、利用者も急増したといわれています。
以上の点から、日本より韓国のほうが赤ちゃんポストに対する関心や理解があると思われます。
こうした背景も「ベイビー・ブローカー」の舞台が韓国になったことに影響しているのかもしれません。
プロットの段階でソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナを想定
是枝さんはプロットを書き始める前から、映画祭や自身の監督作などで「ベイビー・ブローカー」の出演者であるソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ぺ・ドゥナさんと面識があり、「一緒に仕事をしよう」と話していました。
自分が強く関心を寄せるモチーフを、あの3人と一緒に映画にできるかもしれない。
「ゆりかご」*は3人を念頭に置いたうえで当て書きしたプロットだった。
*「ゆりかご」:「ベイビー・ブローカー」のプロット
「ベイビー・ブローカー」パンフレット
「韓国で撮影する」と決めたこと、一緒に仕事をしたい俳優がいたこと、その俳優たちが役のイメージに合っていたことが重なり、今回のキャストに決まったとみて間違いないでしょう。
ちなみに韓国で撮ると決めた是枝さんが、ぺ・ドゥナに相談がてらプロットを読ませた際
「この役はソン・ガンホ、この役はカン・ドンウォンだよね」
と当てられたとか。
これには是枝さんも「さすが」とコメントしています。
“国民の妹”IUことイ・ジウン
先の3人と同じぐらい「ベイビー・ブローカー」で大事な役割を担っているのが、イ・ジウンさん。
彼女は子どもを赤ちゃんポストに預ける若い母親・ソヨンを演じています。
彼女の出演のきっかけは、是枝さんが自身の監督作で撮影監督を務めたことがある山崎裕さんから「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」を勧められたこと。
この作品で彼女の演技力に惹きつけられた是枝さんは、ホン読み(出演者の台本の読み合わせ。「本読み」とも)で彼女がセリフを読み上げるのを振り返って、こう語っています。
ホン読みで台詞を聞いていたら、自分で書いた台詞なのに聞き惚れちゃって。
言葉の一つひとつが音楽を聴いているかのようでした。
「SWITCH」2022年7月号
劇中彼女が歌うシーンは、このホン読みの後で是枝さんが追加したもの。
IU(アイユー)名義で歌手としても活動する彼女は、“国民の妹”と称されるほど韓国で人気です(俳優として活動するときは本名のイ・ジウンで活動)。
子どもを預けざるを得ない事情を抱え、「子どもを捨てた母親」と非難されながらも養父母探しに同行する複雑な役を見事に演じています。
「ベイビー・ブローカー」の撮影監督と音楽は、「パラサイト」と同じ人が担当!
「ベイビー・ブローカー」の撮影監督、音楽を担当したのも韓国人です。
それも映画「パラサイト 半地下の家族」(以下「パラサイト」)でも同じ役割を担当したホン・ギョンピョさんとチョン・ジェイルさん。
もちろん「パラサイト」に寄せたわけではありません。
重大な役割を担うこの2人はどのように選ばれたのでしょう。
韓国映画界のレジェンド。ホン・ギョンピョ
撮影監督は是枝さんが候補として一番手に、韓国を代表するホン・ギョンピョさんを挙げました。
一度スケジュールを理由に断られたものの、「絶対にこの作品はホンさんしかいない」と「パラサイト」のポン・ジュノ監督からワンプッシュしてもらったそうです。
是枝さんはホン・ギョンピョさんについてこう語っています。
今回はフィルムではないのですが、彼の目はフィルムで観る目なんです。
どの作品を見てもそうだけど、空間を捉える時に、ちゃんと闇がある。
闇をどう残して表現として昇華するかという発想で、ワンカットごとに見ているから、それはやっぱり素晴らしかった。
「SWITCH」2022年7月号
ちなみにホン・ギョンピョさんは映画「流浪の月」でも撮影監督を務めています。
坂本龍一も認めた才能。チョン・ジェイル
音楽を担当したチョン・ジェイルさんは、坂本龍一さんも才能を高く評価している音楽家。
全世界でヒットしたNetflix配信作品「イカゲーム」の音楽も担当しています。
是枝さんは撮影監督がホン・ギョンピョさんに決まったことから「パラサイト」に乗っかっているように見えることを懸念し、音楽は他の人にしようと考えていたそうです。
ですがチョン・ジェイルさんから「ぜひやりたい」と声がかかり、是枝さんが実際に会って任せることになりました。
是枝さんは会う前に韓国の音楽番組「あなたの歌は(Your Song)」でチョン・ジェイルさんがピアノを伴奏し、IU(ソヨン役のイ・ジウンさん)が韓国の歌謡曲を歌っているのを聴き「彼にするしかないと思うくらい、そのコラボは抜群だった」と思ったそうです。
実は「ベイビー・ブローカー」を観て私が真っ先にいいと思ったのが音楽。
赤ちゃんポストに預けられた子を連れ帰るシーンで音楽が流れてすぐ「この音楽すごく好き…!」と思いましたね。
穏やかに始まって徐々に不吉な予感を孕んでいく音楽が、ブローカーたちの行く先を暗示しているようでした。
日本では音楽が完成したらあとは監督に任せるのが一般的なようですが、チョン・ジェイルさんは音楽が入っているシーンについて意見を言ったり、別のバージョンの音楽を録音してきたりと積極的に関わってきたそうです。
その姿勢に「だいぶ助けられました」と是枝さんはコメントしています。
韓国のホワイトな撮影現場
性被害を告発する#MeToo運動が起こってから、映画プロデューサーや監督などによる被害が世界中で明るみになっています。
たとえ#MeToo運動がなかったとしても、私含め「映画の仕事は過酷そう」と思っている方も多いのではないでしょうか。
ですが「韓国の映画業界では労働改革が進んでいる」と是枝さん。
韓国の映画界では労働改革が進んでいて、1日の撮影時間は12時間以内に限られており、トータルで週52時間を超える撮影は許可されない。
オーバーする場合は、現場スタッフに残業代が支払われ、そのように明記された標準労働契約がスタッフ全員と結ばれている。
またハラスメント防止のため、リスペクト・トレーニングを受けることが徹底されている。
「だから現場で誰も怒鳴らない。
怒鳴ったら一発でアウトなんです。
でもちゃんと寝て、ちゃんと食べていれば、イライラしないから怒鳴らなくなるってみんな言ってましたね。
韓国のやり方をそのまま日本に導入すれば、すべてうまく行くとは限らないけど、学ぶべきところはたくさんあると思います」(是枝)
「ベイビー・ブローカー」パンフレット
「リスペクト・トレーニング」とは、「自分の行動に相手に対するリスペクトがあったか」問いかけ、立ち止まって考えるトレーニング。
たとえば「上司からの飲みの誘いを断ると、『仕事がなくなるぞ』と言われた」といった具体的な状況について話し合うことで、お互いの理解を深める効果があるといわれています。
このリスペクト・トレーニングは、Netflixオリジナル作品の制作現場にも導入されました。
是枝さんは映画業界の労働環境について、前から思うところがあったのでしょう。
2022年4月、是枝さんも名を連ねる映画監督有志の会が、日本映画製作者連盟に「労働環境保全・ハラスメント防止に関する提言書」を提出しました。
今でもパワハラやセクハラの告発が止まない日本も、韓国のようなホワイトな撮影現場を実現してほしいですね。
まとめ
映画「ベイビー・ブローカー」の舞台はなぜ韓国なのか、キャスト・スタッフに韓国人が多いのはなぜか、解説しました。
映画の題材の受け止められ方や関心の高さなどは、国によって異なる場合があります。
そうした点から映画の舞台やキャストが決まるのは、なかなか興味深いですね。
「ベイビー・ブローカー」と韓国の関係について書きましたが、「ベイビー・ブローカー」で描かれていることは、誰もが共感できることです。
あまり「韓国」とか「日本」とか国にとらわれずに楽しんでいただきたいです。
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イラストキネマのオーナー、サオリでした。
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